新聞の紙面上には、お詫び広告が氾濫している。つまりは企業の不祥事等が絶えないということになるが、なぜその数が年々増えているのだろうか。
もちろん、コンプライアンス(法令遵守)の意識が広まったということもあるだろう。コンプライアンスとは、コーポレートガバナンス(企業統治)の一つであり、法律や規則を守るだけでなく、社会的規範や企業倫理を守ることである。そして現代の日本ではCSR(企業の社会的責任)と共に非常に重視されており、企業が事故・不祥事等の被害の拡大を阻止し、消費者に安心を与えることを責務とするようになったのである。自らの不祥事・事故等を積極的に公表する必要が出てきたということは、お詫び広告の数が増えていく結果となる。
また、以前と異なり消費者の意識が変わり、それに伴い企業の商品に対する基準や法令の整備が進んだことも挙げられる。監視するための非営利団体や市民団体の台頭もあるだろう。さらに追い打ちをかけるようにメディアの進化と複雑化が、不祥事・事故を含めた最新の情報を場所・時間を選ばずに消費者の元へ届けることを可能にした。これにより企業のマイナスイメージも迅速に伝わる結果となってしまい、その対処としてお詫び広告を出す必要がでてきたということも容易に想像がつく。
しかし実際にはバブル崩壊による不況により、コスト削減による製造現場や運送現場等での安全対策不備、そして社会全体における規律・倫理の低下に起因するといわれている。そしてそれら安全対策不備や事故を隠ぺいする偽装問題などの不祥事は増加の一途をたどり、それに伴い新聞紙上のお詫び広告の数は劇的に増加している。
A社新聞(東京)を例にとると、2006年2月では32件(計2段×2852センチ)に対して、2007年2月では44件(計2段×6658センチ)と、面積・件数ともに大きく増えている。
さらに拍車をかけたのが、お詫びする内容の複雑化である。商品欠陥やそれによる事故、食品の異物混入や賞味期限切れだけではなく、現代の日本では実に多くのお詫び広告が存在する。その最たるものが「個人情報流出」と「表示と異なる原材料使用」であろう。前者については、もはや社会現象となっている。コンピューターと携帯の普及により、ネットバンキングやショッピング、オークション等、個人情報はネット上を行き来し、企業の持つ顧客情報は常に流出の危険がつきまとっている。また後者についても、食品産地のブランド多様化により、表示にある産地と異なる原材料を使用した食品が問題になり、各メディアで報道されたのは記憶に新しい。過去にはなかった新しいタイプのお詫び広告が出現したことも広告増加に一役買っている。
企業に対する消費者の目が厳しくなり、違法行為でなくても道義的に問題がある行動に対しては厳しく見られる現在、大企業であっても不祥事にうまく対応できないと一気に見放され、経営危機に陥ることもしばしば起こりうる。今後もお詫び広告は増加の一途をたどることだろう。